Dusk image of surrounding buildings and skyscraper.

連載コラム・欧州M&A最前線>2018年11月

30 November 2018. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

クリスマスまであと数日。オフィスには、すでに休暇入りした同僚達の空席がちらほら見られる一方、年内に取引やプロジェクトを完了しようと奔走する姿も目立つ。クリスマスと元日の間には営業日が2、3日あるが、ロンドンの金融街シティーは空っぽだろう。(ナイジェル・コリンズ/M&A専門弁護士)

今回のコラムでは、以前にも言及した国家安全保障とそのM&Aへの影響をテーマに取り上げる。ここ2、3年、特に米国やカナダ、ドイツで、中国企業による様々な企業の買収が国家安全保障上の理由から阻止されるケースが増えている。その中には、ロボット工学などハイテク分野の企業買収もかなり含まれている。

英政府は201710月、政府権限を見直す必要があるとの観点から、現行規制が十分かどうかを問う意見公募を開始した。2018年7月には、この件についての白書を公表している。政府は今後、意見公募の回答をまとめ、新法案を提出する予定だ。

■白書で謳う新制度案

届け出:国家安全保障上の懸念を生む可能性のある投資その他の事象については、届け出を奨励する。さらに、政府は取引その他の事象について国家安全保障上の審査を行う権限を有する(取引完了後、一定期間が経過している場合も含む)。

選考:政府の初期分析によると、こうした届け出は年間約200件に上ると予想される。このうち、国家安全保障上の懸念がないものは、迅速に除外することを目指すとしている。

本格的な国家安全保障上の審査:政府は、国家安全保障上の懸念を生むと予想される届け出について(初期分析によるとすべての届け出のうち約半数と見込まれる)、既定の明白な手続きに従って本格的な審査を行う。

是正措置の義務付け:審査の結果、国家安全保障がリスクにさらされると判断した場合、政府は必要かつ相応の是正措置を課す。政府の初期分析によると、本格的な国家安全保障審査の対象となる案件のうち約半数がこれに当たる見通し。

より広範なトリガーイベント(引き金となる事象):トリガーイベントは、敵対的な行為者が短期的または長期的に国家安全保障を損なう能力を獲得できる手段を指す。例えば、(a)企業の株式または議決権の25%以上の取得、(b)企業に対する多大な影響力や支配権の獲得、(c)上記の条件を越える多大な影響力または支配権の追加獲得、のいずれかを伴う投資その他の活動がこれに含まれる。

救済措置:政府はトリガーイベントの実行を許可するに当たり、こうしたリスクを予防または軽減するための条件を課すことができる。また最後の手段として、トリガーイベントを阻止または解消できる。救済措置や制裁措置の決定に対しては、この規制案に基づく全ての決定および行動(トリガーイベントかどうかの判断を含む)に対してと同様、異議申し立てや司法判断の請求を行うことができる。

参考までに白書のリンクを文末に付けたので、詳しい内容については参照いただきたい。

11月の注目すべき取引を以下に挙げる。

 

●ダイキン工業は、オーストリアの商業用冷凍・冷蔵ショーケースの製造・販売を手掛けるAHTを10億ドルで買収する。欧州での足場を固めると共に、米国とアジアで冷凍・冷蔵設備事業を拡大する狙い。

私生活面では昨日、2018年最後の剣道の稽古をした。気合の入った打ち込みや地稽古をで素晴らしい1年を締めくくった。この場を借りて、本コラムの全ての読者の方々と、こうした情報発信の場を与えてださっている編集部の素晴らしいスタッフ、日本の剣道の師でいつも私を導いてくださる岩波先生に、お礼を申し上げたい。

皆様が楽しいクリスマスと健康で豊かな新年を迎えられますように。

 

Originally published by NNA in November 2018.