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欧州M&A最前線 2018年2月

23 February 2018. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

酷寒の東京と暖かい香港、蒸し暑いシンガポールを出張で回り、大勢のクライアントや関係者を訪ねて帰ってきたところだ。各地とも景況感は良く、フィンテック(金融とITの融合)やインシュアテック、クリーンエナジー技術が投資先として人気を高めている。

この分野では私も最近、何件かの取引をまとめ、さらに現在進行中の案件も2、3件抱えている。

英国で年々、成長しているもう一つの分野が、訴訟ファイナンスだ。この市場はプライベート・エクイティー(PE)企業やヘッジファンドを引き付け、著しく変貌しつつある。

英国の訴訟ファンドの「軍資金」は昨年には前年比42%増の10億ポンドに達した。上位20社の独立系訴訟ファンド企業の資産総額は、2015/16年度の7億2,600万ポンドから、2016/17年度には10億3,000万ポンドに増えている。訴訟ファンドは企業や個人が起こす訴訟の費用を支払う代わりに、損害賠償を獲得できればその一部を受け取る。

急成長の背景には、PEやヘッジファンドが新種の資産として訴訟ファンドに投資し続けていることがある。投資家にとっての主な魅力は、株式や債券などの従来型資産と利回りの相関性がなく、リスクの分散に役立つことだ。

しかも、PEやヘッジファンドが訴訟ファンドに提供した手付かずの融資枠は、バランスシート上の資産総額の何倍にも上るとみられている。投資が増え続ける中、訴訟ファンドは獲得した資金を活用するために、支援対象となる訴訟案件の開拓にさらに力を入れている。

中でも注力しているのが、集団訴訟の分野だ。例えば、今年初めにはある大手行が、2008年の新株発行を巡り株主に誤解を与えたとして、2億ポンドの和解金を支払うことで合意した。これを受け、今後は似たような訴訟が続くだろう。

訴訟ファンドが支援する集団訴訟にはほかに、別の大手行が競合の買収により株主に損失を与えたとして訴えられているケースや、欧州の大手自動車メーカーが排ガス規制を欺く機能を車に組み込んでいたとして提訴されているケースがある。

訴訟ファンドは他にも以下のような革新的戦略を生み出している。

  • 特定分野の訴訟案件への「独占的アクセス」を提供する――訴訟ファンドは、医療ミスや製造物責任など特定の分野で、ある法律事務所が手掛ける訴訟を一括して支援することにも乗り気だ。
    例えばロンドンのある法律事務所は2月、訴訟ファンド企業ウッズフォード・リティゲーション・ファンディングと、エネルギー・鉱業分野の訴訟支援で提携したと発表した。
  • 大規模紛争の仲裁――裁判所での訴訟の支援に加え、投資条約を巡る仲裁にも関心を高めている。これは、投資家と国家の間で、国際投資条約や各国の投資法、個々の契約を巡って起きた紛争の和解を目指すものだ。セリアム(Therium)・キャピタルやカルニアス(Calunius)・キャピタルなど複数の訴訟ファンドが、仲裁手続き支援を今後の重点事業にする方針を示している。
  • 資産追跡を事業分野に含める――訴訟ファンド企業の間で、海外資産の追跡・回収など、判決の執行に関わる費用を支援する動きが高まっている。例えばバーフォード・キャピタルは、国際資産追跡部門を設置している。

2月の日本企業絡みの注目取引を以下に挙げる。

  • NECディスプレイソリューションズの欧州販売子会社NECディスプレイソリューションズ・ヨーロッパ(NDSE)が、LEDディスプレーシステムインテグレーションを手掛ける独Sクワドラート(quadrat)を買収すると発表した。ディスプレイ技術の多様化を狙った面白い取引だ。
  • ニコンは事業分野を絞り込む戦略の一環として、接触式3次元測定機(CMM)事業をイタリアのASFメトロロジーに売却することで合意した。
  • インターネット金融事業を手掛けるSBIホールディングスの子会社でベンチャーキャピタルの運用・管理を行うSBIインベストメント(東京都港区)は、保険商品管理のアプリを手掛けるスイスのインシュアテック企業ファイナンスアップ(FinaceApp)に出資した。

じっとしているのが苦手な私は、これからまた旅行に出かける。今回は、カナダ東部ガスペ半島をスノーモービルで巡る全行程2,000キロメートル近い冒険旅行だ。剣道とは少し違うが、厳しい地形と天候に耐えるサバイバル精神は求められそうだ。

Originally published by NNA in February 2018