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<連載コラム・欧州M&A最前線>2018年7月

21 September 2018. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

日本と違いロンドンでは気候が変わり、全般的にずいぶんと涼しくなった。この夏は長く異例の暑さったが、M&A市場もそれに負けない熱気を帯びた。当社各部門も多忙を極め、今なお次々とM&Aや投資の取引が成立している。今のところ、この活況は夏が終わっても続きそうな勢いだ。(ナイジェル・コリンズ/M&A専門弁護士)

■増加する表明保証保険

M&A市場で最近、目につくようになったのが、表明保証保険の利用の増加ぶりだ。表明保証保険とは、売り手が売買契約の表明保証や税金などに関する条項に違反した場合の経済的責任をカバーする保険だ。

表明保証保険の利用が増えている理由の1つは、保険料がより手頃になったことだ。表明保証保険の保険料は、保険金の約2~3%が相場だったが、最近では1%というケースもある。また、通常なら保険料に加えて、保険会社のコストとして1万5,000ポンド程度を負担する必要もあるが、保険に加入した場合にはこれを免除されることも多い。

表明保証保険に加入する理由も変化している。

売り主側の視点:(a)クリーン・エグジット(完全な離脱)――取引成立後の賠償責任を、皆無にはできないまでも制限する手段として。(b)エスクロー口座――エスクローとは商取引で中立な第三者を通じて決済を行うことにより、安全な取引を保証する取引形態だ。取引成立後の表明保証違反をめぐる賠償請求への備えとして、多くの場合、売り主は売却代金の一定比率を第三者のエスクロー口座に預託するよう求められる。

買い主側の視点:(a)競争入札における差別化。(b)未公開株取引――自分の会社のマネジメントを提訴するのはとても難しい。(c)売り主賠償責任の上限が低すぎる――交渉上、売り主が特に優位にある場合、売買契約で売り主の賠償責任が低く設定されることがあるので、買い主が表明保証保険による追加の保証を求める。(d)売り主の長期的安定性への懸念――売り主が事業を清算する可能性がある場合。

■どのような条項が保険対象外か

表明保証保険の対象外となるものも、知っておく価値がある。

1.  買い主がデューディリジェンス(資産の適正評価)で認識し、それ以外で売り主が開示した既知の事実や事項。ただし、保険会社がリスクを受け入れられると判断した場合には、ケースバイケースで既知の事実・事項についても保険をかけることが可能。

2.  標的企業による取引完了後の財務目標の達成といった、将来を見越した保証

3.  移転価格や二次的納税義務といった一部の税務事項

4.  法律上、保険でカバーすることのできない民事および刑事上の罰金や制裁

5.  ロックト・ボックス(Locked Box)方式の取引における取引完了後の価格調整やリーケージ(価値の流出)禁止条項

7.  環境に関する保証など、一部条項の保証。ただし、専門の保険会社が環境関連の保険を提供する場合もある。

7月の気になった取引を以下に挙げる。

・電通は海外本社の電通イージス・ネットワーク(英国)を通じて、英広告会社ホワイトスペースの全株式を取得することで合意。クリエーティブ関連サービスを強化し、事業規模およびビジネス領域の拡大を図る。

・住友商事は、ウクライナの総合農業資材販売会社スペクター・アグロ(Spectr-Agro)とスペクター・アグロテクニカ(Spectr-Agrotechnika、2社を総称してスペクター)の株式51%を取得。同国での農業資材直販事業に参入する。

・日本電産(京都市)は3日、商業用モーターの設計・製造・販売を手掛ける伊チーマ(CIMA)の全株式の取得を完了したと発表した。商業用モーター事業の強化を図る戦略の一環。

剣道では、韓国の仁川で開かれる世界選手権大会が近付いてきた(9月14~16日開催)。出場予定の息子と毎日のように練習し、朝稽古も一緒にしている。朝稽古は1日をスタートする素晴らしい方法だ。日本に住んでいたら、できるだけ頻繁に参加したいところだ。

*表明保証保険については、同僚が詳しくまとめている。