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欧州M&A最前線 2017年6月

30 June 2017. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

ブレグジット交渉が始まり、与党・保守党と北アイルランドの民主統一党(DUP)の閣外協力もやっとのことで決まった。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は相変わらずあちこちで社会主義的な公約や夢物語を説いており、これがどの程度、政局不安定化の要因となるか見守る必要がある。このように、英国の置かれている状況は厳しいが、投資およびM&Aの市場は活況を呈している。5月はさほど多くの取引がまとまらなかったものの、投資銀行筋に言わせると有望案件は数多く控えており、市場の見通しは明るい。嬉しい話で、ぜひその通りになってほしい。

電子小売(eリテール)事業の機会について質問を受け、この業界の現状について少し調べてみた。当法律事務所が先に実施したある調査によると、eリテール企業の絡むM&A取引は増加しており、過去5年で最高水準に達している。

eリテールのM&A取引は、小売業界全体の流れに逆行して増えている。その原動力となっているのは、インターネットへの売り上げのシフトが続いていることだ、従来型の小売企業が競合に対抗してオンライン事業を強化しようとする一方、既存のeリテール企業はポートフォリオと市場シェアの拡大を目指している。

小売企業は、確立したeリテール業者を買収して発展させることにより、オンライン事業の立ち上げや育成にかかる費用と時間を削減することを狙っている。過去5年に売りに出されたeリテール企業のうち、従来型の小売企業に買収された企業の比率は35%に上る。一方、同業による買収は32%、プライベート・エクイティー(PE)企業は25%だった。

当法律事務所の小売業担当部門はこう分析している。「オンライン小売業界は急速に成長しており、M&Aは今後も増え続けるだろう。小売企業は近年、多様な販売チャネルの開発を求められているが、多くの企業は事業を一から立ち上げるよりも買収して発展させることにより、短期に市場競争力をつける道を選んでいるようだ。確立したブランドや顧客との接点、顧客ベース、人材を擁する既存のeリテール企業は魅力的な買収対象であり、買収後もブランド名は変更されない場合が多い。従来型小売企業はeリテール企業のブランドと専門知識を手に入れることにより、市場での存在感を保てると共に、小売業界最大の成長分野で後れを取らずに済む。

今後、この成長分野への投資が増えることは間違いない。日本企業による電子商取引(eコマース)企業の買収案件はいくつかあるようだが、eリテール企業への投資はまだ聞いたことがない。商社などは、これを検討してみてもいいのではないだろうか。

5月は動きが少なかったものの、いくつか注目の取引を挙げる。

  • ソフトバンクを中心とする投資家が、仮想現実(VR)技術を手掛けるロンドンのスタートアップ企業、インプロバブル(Improbable)に5億200万ドルを投資した。
  • 人材サービスのクイック(大阪・東京2本社制)は、英国の同業センターピープル・アポイントメンツをジャパン・センターグループなどから買収することで合意した。取引額は明らかにされていない。センターピープルはロンドンの日系企業向けの人材派遣業者として知られる。
  • 電通は買収攻勢を続けており、トルコのデジタルエージェンシー、セスリハーフラー(SesliHarfler)の全株式を買収することで合意した。

私自身は間もなく東南アジアに出かける予定だ。今回は、東京、香港、ハノイ、ホーチミン、そしてシンガポールを駆け足で回る。マイレージを稼ぎ、数多くの打ち合わせをこなし、少なくとも3都市で剣道にいそしむつもりだ。

Originally published by NNA in June 2017