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連載コラム● 欧州M&A最前線 2018年5月 ● 欧州連合(EU)営業秘密保護指令の施行により、背信行為を巡る訴訟が増加する見通しとなっている

27 June 2018. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

ところで、欧州連合(EU)営業秘密保護指令の施行により、背信行為を巡る訴訟が増加する見通しとなっている。当社の同僚たちがこのほど、これについてまとめたので紹介する。営業秘密保護の現状はどうなっているのか。

英国では現在、営業秘密が法的に定義されておらず、営業秘密保護はさまざまな判例を通じて進展してきた。本質的に、営業秘密とは秘密情報の一形態だ。

ただ、秘密情報が営業秘密と見なされるためには、さらに条件がある。その情報が競合企業に開示された場合、所有企業に実質的あるいは多大な損害が及ぶことが必要となるのだ。つまり営業秘密とは、秘密情報の中でも特に貴重な情報を指す。

このほど施行されたEU営業秘密保護指令には、営業秘密の定義を域内で統一する狙いがある。その定義は、どちらかとういうと英国での現在の秘密情報の定義に近い。同指令では営業秘密に以下の条件を求めている。

  • 秘密であること
  • 秘密であることに由来する商業的価値があること
  • 営業秘密の保有者は、それを守るための合理的努力を求められること

同指令はまた、営業秘密の違法入手に対する訴えや、二次的責任、内部告発者へのより広範な保護にも法的根拠を与えている。

背信行為全般に関する訴訟は(保険の有無を問わず)既に増加傾向にある。中でもよくあるのが、取締役や幹部の競合企業への転職に伴うケースで、雇用契約違反と判例法上の背信行為の両方で訴えている場合が多い。また、個人がデータ漏示をちらつかせて元雇用主を脅迫したり、顧客が入札参加企業からアイデアを盗むケース、企業が利己的な目的で他社の秘密情報を利用したり開示しようとするケースもある。

背信行為を巡る訴訟の増加傾向は、今後も続く見通しだ。それは必ずしも法的な位置付けが変わったからではなく、同指令を巡る報道により、(特に中小の)企業が、自社の貴重な無形資産を法的に守ることが可能だと気付いたことが大きい。

実務面での助言を以下に挙げる。

  • 秘密情報のセキュリティーや保護を強化すること(非開示契約の締結、ITセキュリティーの強化、アクセス制限など)
  • 雇用契約の秘密保持条項を更新すること
  • 秘密情報の定期監査を実施すること

5月の注目取引を紹介する。

  • ソニーの買収攻勢が続いている。同社は英EMIミュージック・パブリッシングの株式約60%を現金23億ドルで取得し、総負債約135,900万ドルも引き受けると発表。先には、人気漫画『スヌーピー』の権利を保有する米ピーナッツに1億8,500万ドルを出資すると明らかにしたばかりだった。いずれも知的財産権のポートフォリオを強化する長期戦略の一環だ。
  • 日立製作所とロシアの鉄道車両製造最大手トランスマッシュホールディング(Transmashholding、TMH)は、鉄道車両用電気品を製造する合弁会社を設立することで合意した。高性能のけん引用インバーターをロシア・CIS 諸国で販売する計画だ。両社はさまざまなプロジェクトを共同で手掛けた実績を持つ。
  • 住友重機械工業は、産業用モーターの製造・販売を手掛ける伊ラファト(Lafert)を取得し、子会社化すると発表した。両社は製品の重複がほとんどなく、双方に戦略的メリットのある取引だ。

剣道では、9月に韓国で開かれる世界選手権大会に向け、英代表チームの懸命な稽古が続いている。先の週末はパートナー会議のため稽古に参加できなかったが、代わりにジムでトレーニングをこなした。選手達の練習を助けるためには、私ももっと体を鍛える必要がある。日本の先生からは以前、私の剣道に対する姿勢が間違っていると指摘された。剣道をするために体を鍛えるのであって、体を鍛えるために剣道をするべきではないと先生は言う。剣道は武道であり、スポーツではないのだ。

 

Originally published by NNA in May 2018.