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欧州M&A最前線 2017年9月

29 September 2017. Published by Nigel Collins, Partner, Head of Japan Desk

夏季休暇が明け、日常に戻ったロンドンの金融街シティーには、さまざまなプロジェクトを進めようという意欲と活気がみなぎっている。

案件数も十分にあり、アドバイザーの多くが忙しい時期を迎えようとしているが、まだ本格始動とはいかないプロジェクトもあるようだ。

人気が急上昇しているクラフトビール業界では、ブランドの商標登録件数が前年比で104%増加し、2007年以降で最高の水準に達した。英知的財産庁によると、英国におけるビール・ブランドの新規商標登録の件数は、昨年に1,983件となり、2015年から19%増加した。

新ビール・ブランドの商標登録が急増している背景には、スーパーや大手飲料メーカーがかねてからのクラフトビール人気にあやかり、自前の「クラフトビール」型製品を導入していることがある。

スーパー各社は、新興の小規模ビール・ブランドの製品を積極的に仕入れるのと並行して、独立系ビール醸造所によるOEM(相手先ブランドによる生産)などを通じ独自のクラフトビールを開発している。例えば、独格安スーパー大手アルディは5月、新たに16種類のクラフトビールを発売すると発表した。また、英小売大手マークス・アンド・スペンサー(M&S)はクラフトビール専門店リアル・エールと提携し、全国の小規模ビール醸造所からさまざまなビールを調達している。各社とも、クラフトビールの豊富な品揃えをセールスポイントとして利用し、競争力を高める狙いだ。

一方、新ビール・ブランド急増の背景には、全英で独立系醸造所が増えていることもある。こうした新興醸造所を触発したのは、カムデンタウン・ブリューワリーなど先発の醸造所が大きな成功を収めたことだ。同社は先に、ビールで世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ、ベルギー)によって8,500万ポンドで買収されている。

英会計事務所UHYハッカーヤングの最近の調査によると、英国で昨年に開業した新醸造所の数は520件と、前年から一気に33%増えた。クラフトビール業界では、新規参入が増えているだけでなく、既存の醸造所も事業を拡大し、積極的に新製品を発売している。

クラフトビール業界で最近、注目を集めた登録商標がらみの係争を紹介する。

  • 英スコットランドのクラフトビール大手ブリュードッグ(BrewDog)は、自社製品と同じ「ローン・ウルフ」を名乗る英イングランド中部バーミンガムのパブに法的な警告を行った。ただ、これはその後、撤回されたようだ。
  • 英スコットランドのテンペスト・ブリューイングはこのほど、英イングランドの醸造所との商標権争いを受け、人気製品「ボマーIPA」を改称すると発表した。
  • ブリュードッグはまた、クラフトビール製品「エルビス・ジュース」の商標登録をめぐり、故エルビス・プレスリーの財産権管理団体とも争っている。

おかげで当社の知的財産権チームは多忙な毎日だが、日本企業絡みでは以下のような取引があった。

  • JR東日本と三井物産が、オランダ鉄道(NS)系列のアベリオ(Abellio)・グループの英国子会社(アベリオUK)と共に、イングランド中西部で路線網を展開する鉄道「ウエストミッドランズ」のフランチャイズ(営業権)を落札した。英国の鉄道事業には最近、多くの日本企業が注力しており、今後もこの傾向は続きそうだ。
  • 総合建設コンサルタントの建設技術研究所(東京都中央区)は、4,300万ポンドで英同業ウォーターマングループの残り株を取得し、完全子会社化した。技術分野の拡大とさらなる国際進出を狙う。
  • 総合化学メーカーのデンカ(東京中央区)は、ドイツのバイオ医薬品会社アイコン・ジェネティクス(Icon Genetics)の残り株49%を取得し、完全子会社化した。

私生活面では剣道の英国代表チームが、2018年9月に韓国の仁川(インチョン)で開かれる剣道の世界選手権大会に向けた準備を開始した。選手達は全体的によく集中し、もっと上手くなりたいという決意とやる気を見せていた。ただ中には、剣道をするためには相応の体が必要で、体を作るために剣道をするのではないということを忘れている選手もいた。私の日本の先生が言うように、フィットネスが目的ならジョギングでもすることだ。

Originally published by NNA in September 2017